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横浜地方裁判所 昭和62年(ワ)1722号 判決

原告 櫻田祥子

右訴訟代理人弁護士 本間勢三郎

同 櫻本義信

被告 有限会社 丸市商事

右代表者代表取締役 金井与市

右訴訟代理人弁護士 山登健二

被告 株式会社 三住企画

右代表者代表取締役 栗原英夫

右訴訟代理人弁護士 高津公子

被告 友愛信用組合

右代表者代表理事 天野清次

右訴訟代理人弁護士 濱田武司

被告株式会社三住企画補助参加人 金井慶祐

〈ほか一名〉

右両名訴訟代理人弁護士 平岩敬一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告有限会社丸市商事(以下「被告丸市商事」という)は、原告に対し、別紙物件目録記載の土地・建物(以下「本件物件」という)について、横浜地方法務局神奈川出張所昭和六二年三月五日受付第一六二三八号所有権移転仮登記及び同出張所同月一八日受付第二〇〇八二号所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

2  被告株式会社三住企画(以下「被告三住企画」という)は、原告に対し、本件物件について、横浜地方法務局神奈川出張所昭和六二年五月二五日受付第四二六五七号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

3  被告友愛信用組合(以下「被告友愛信用」という)は、原告に対し、本件物件について、横浜地方法務局神奈川出張所昭和六二年五月二五日受付第四二六五八号根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら及び補助参加人ら共通)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は本件物件を所有している。

2  本件物件について、被告丸市商事のためいずれも昭和六二年三月四日譲渡担保を原因とする請求の趣旨1項記載のとおりの所有権移転仮登記及び所有権移転登記が、被告三住企画のため同年五月二三日売買を原因とする請求の趣旨2項記載のとおりの所有権移転登記が、被告友愛信用のため同日設定を原因とする請求の趣旨3項記載のとおりの根抵当権設定登記がそれぞれ経由されている。

3  よって、原告は被告らに対し、所有権に基づき、右各登記の抹消登記手続を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告丸市商事)

1 請求原因1につき、もと原告が本件物件を所有していたことは認める。

2 同2は認める。

(被告三住企画)

1 請求原因1は否認する。

2 同2は認める。

(被告友愛信用)

1 請求原因1は否認する。

2 同2は認める。

(補助参加人両名)

1 請求原因1は否認する。

2 同2は認める。

三  抗弁

(被告丸市商事)

1(一) 被告丸市商事は、昭和六二年三月初め頃、有限会社櫻田商店(以下「櫻田商店」という)から、本件物件を譲渡担保にするとのことで二〇〇〇万円の融資申入れを受けてこれを承諾し、櫻田商店に対し、同年三月四日五〇〇万円、同月一七日残金一五〇〇万円をそれぞれ貸し渡し、同月一七日、櫻田商店との間で、右貸金合計二〇〇〇万円について、弁済期を同年四月一六日、利息を年三〇・七二パーセント、損害金を年五四・七五パーセントとする旨合意した。

(二) 原告は、同年三月四日、被告丸市商事との間で、櫻田商店の被告丸市商事に対する右二〇〇〇万円の貸金債務を担保するため、本件物件を被告丸市商事に譲渡し、櫻田商店が右債務を履行しないときは、被告丸市商事において任意に本件物件を売却し、その売得金で右債務の弁済に充当することができる、この場合、換価代金が全債務の額に満たないときは、櫻田商店は直ちにその不足額を支払い、右換価代金が債務額を超過するときは、被告丸市商事は直ちにその超過額を原告に支払う旨の譲渡担保権設定契約を締結した。

(三) 原告から被告丸市商事への所有権移転仮登記は右五〇〇万円を融資した際、同じく所有権移転登記は残金一五〇〇万円を融資した際、いずれも右譲渡担保権設定契約に基づいて経由されたものである。

2(一) 補助参加人金井慶祐(以下「参加人金井」という)及び原告は、昭和六二年三月一七日、櫻田商店の被告丸市商事に対する前記二〇〇〇万円の貸金債務について、連帯保証をした。

(二) 櫻田商店は右貸金債務を期限に弁済せず、参加人金井が同年五月二三日、被告丸市商事に対しその元利金二〇九七万〇五〇〇円を代位弁済したため、参加人金井は櫻田商店に対して同額の求償金債権を取得するとともに、本件物件について譲渡担保権を取得した。

(三) その後、参加人金井は被告三住企画に対し本件物件を売り渡し、本件物件について、中間省略登記により、被告丸市商事から被告三住企画に対して所有権移転登記が経由された。

よって、譲渡担保権実行により、原告は本件物件の所有権を完全に喪失した。

3 原告は、昭和六二年四月二七日、双和株式会社(以下「双和」という)に対して本件物件を譲渡し、その所有権を喪失した。

(被告三住企画)

1 被告三住企画は、昭和六二年五月二三日、原告の債務を代位弁済した参加人金井及び同じく売主になった補助参加人白浜新石(以下「参加人白浜」という)の両名から本件物件を代金一億円で買い受け、同月二五日、中間省略登記により被告丸市商事から本件物件について所有権移転登記を受けた。

債務者が被担保債務について期限の利益を喪失した後、譲渡担保権が実行され、第三者が目的物件を取得したときは、右第三者は完全な所有権を取得するから、被告三住企画は、本件物件の所有権取得を原告に対抗しうる。

2 仮に、被告三住企画が被担保債務の弁済期前に本件物件を買い受けたとしても、譲渡担保権者は対外的には完全な所有権を有しているから、被告三住企画は、その善意、悪意を問わず本件物件の所有権を取得し、これを原告に対抗できる。

3 更に、右の場合に、被告三住企画が完全な所有権を取得するためには、その善意又は善意・無過失を必要とするとしても、被告三住企画は本件物件を買い受けるに際し、被担保債務の弁済期経過前であることを知らず、かつ知らないことについて過失はない。すなわち、被告三住企画は、参加人白浜から本件物件売買の商談を持ち込まれた数日後、債務者本人である原告に面談すべく、本件物件の登記簿謄本の記載から原告の住所地を調べたうえ、その記載地に原告を訪ねたが、そこには別人の表札が掲げられ、同人は原告と関わりのない旨特記せられた貼紙がされており、隣人に照会したところ、原告が昭和六二年三月末頃引越しずみであるとの情報を得た。そこで、被告三住企画は、原告の移転先を調査するため、原告の住民票除票を取得し、数日後、原告の移転先住所地を尋ねあてたが、そこにはビル全体が既に空室であり、原告の転居先を示す何らの手掛かりも得られなかった。このため、被告三住企画は、参加人白浜に対し、一旦は右取引を拒絶したが、参加人らは被告三住企画に対し、金銭消費貸借契約公正証書正本の写しを持参したうえ、原告が、同年四月以降利息の支払を怠っていること、櫻田商店振出、原告保証の約束手形が不渡となっていること、原告の所在が不明であることなど、いずれの観点からも右公正証書の約款に定める期限の利益喪失事由があり、処分に問題は全くないと力説した。その結果、被告三住企画は本件売買の合意をするに至ったものであり、以上の各経過に照らせば、被告三住企画が被担保債務の弁済期経過前であることについて善意・無過失であったことは明らかである。

(被告友愛信用)

被告三住企画の抗弁1を援用する。

(参加人両名)

1 被告丸市商事は、昭和六二年三月四日頃、櫻田商店に対し、原告所有の本件物件を譲渡担保とすることを条件に、弁済期を同年九月四日と定めて二〇〇〇万円を貸し渡す旨の契約を締結し、その際、参加人金井は、櫻田商店の右債務について連帯保証をした。

2 櫻田商店は、同年三月四日頃、本件物件について原告から被告丸市商事へ所有権移転仮登記をすることとして、同被告から五〇〇万円を受領し、次いで同年三月一七日頃、本件物件について原告から被告丸市商事に対する所有権移転登記手続の準備ができたので、同被告から残金一五〇〇万円を受領した。

3 櫻田商店は、同年三月末頃約束手形の不渡りを出し、銀行取引停止処分を受けた。

4 これによって、櫻田商店は被告丸市商事に対する債務について期限の利益を喪失し、参加人金井は、同年五月二三日、被告丸市商事に対し元利金二〇九七万〇五〇〇円を代位弁済し、その結果、参加人金井は、櫻田商店に対し、右同額の求償権を取得し、本件物件を換価処分する権限を取得した。

5 参加人両名は、同年五月二三日、参加人金井のほか同白浜をも売主として、被告三住企画に本件物件を売り渡し、中間省略登記により、被告丸市商事から被告三住企画に対し所有権移転登記が経由された。

四  抗弁に対する認否

(被告丸市商事の抗弁について)

1 抗弁1(一)は否認する。被告丸市商事から五〇〇万円を借り受けたのは原告であり、その日時は昭和六二年三月五日である。また、被告丸市商事から同月一七日に一五〇〇万円を借り受けたのも原告である。右合計二〇〇〇万円の貸金についての弁済期は同年九月四日であり、利息は同年四月四日までの間は年三〇パーセントとし、これを右貸付日に支払ずみであり、同年四月五日以降については年一五パーセント(年三六五日の日割計算)とし、毎月五日に一か月分を前払するとの約定であった。また、遅延損害金については年三〇パーセント(年三六五日の日割計算)とする約定であった。

同1(二)のうち、原告が被告丸市商事との間で本件物件について譲渡担保権設定契約を締結したことは認めるが、その契約内容は否認する。原告の被告丸市商事に対する右債務を担保するためのものである。

同1(三)は否認する。

2 同2(一)、(二)は否認する。原告は、前記約定に従い、被告丸市商事に対して昭和六二年六月分までの利息を支払ってきたが、同年五月一八日、被告丸市商事に対し、前記債務の元利金を一括して弁済するから、その取引日を決めたいと申し出、更に、同月二二日、被告丸市商事に対し、同月二九日に右元利金全額を持参して弁済するから、本件物件に対する譲渡担保を原因とする所有権移転登記の抹消登記申請に要する書類を取りまとめて欲しいと申し出て、被告丸市商事からその旨承諾を取りつけた。しかるに、被告丸市商事は、同年五月二五日になって、原告に対し、参加人金井から右元利金の弁済を受けながら、原告との同月二九日の取引には応じられないとして、原告から元利金の弁済の受領を拒否するに至った。そこで、原告は、同年六月一一日到達の内容証明郵便で、被告丸市商事に対し、右借受債務の元利金全額を同年六月一六日被告丸市商事に持参して弁済する旨意思表示して、債務提供したが、被告丸市商事は同月一二日付内容証明郵便で原告に対し、受領拒否の意思表示をしてきた。そこで、原告は、同年七月四日、双和名義で、被告丸市商事を被供託者として、右借受債務の元利金二〇〇六万五七五三円を弁済供託した。従って、被告丸市商事には本件物件を処分する何らの権原はなく、また、右金銭消費貸借の連帯保証人でない参加人金井に本件物件の所有権が移転する筈もなく、同参加人も本件物件につき何らの処分権原を有していない。

同2(三)のうち、本件物件について被告丸市商事から同三住企画に対し所有権移転登記が経由されていることは認めるが、その余は否認する。

3 同3は否認する。原告は双和に対し、本件物件を譲渡担保としたものにすぎない。

(被告三住企画の抗弁について)

抗弁1は否認する。

(被告三住企画の抗弁について)

否認する。

(参加人両名の抗弁について)

1 抗弁1は否認する。昭和六二年三月四日頃、被告丸市商事との間で、同被告から本件物件を譲渡担保とすることを条件に、弁済期を同年九月四日と定めて二〇〇〇万円を借り受ける旨の契約を締結したのは原告であり、参加人金井は連帯保証をしていない。

2 同2は否認する。被告丸市商事から五〇〇万円及び一五〇〇万円を受領したのは原告である。

3 同3は認める。

4 同4は否認する。

5 同5のうち、本件物件について被告丸市商事から同三住企画に対し所有権移転登記が経由されていることは認め、その余は否認する。

第三《証拠関係省略》

理由

一  請求原因1につき、もと原告が本件物件を所有していたことは原告と被告丸市商事との間で争いがなく、《証拠省略》によると、もと原告が本件物件を所有していたことは明らかである。

また、請求原因2の事実は当事者間に争いがない。

二  譲渡担保権設定について

《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる。《証拠判断省略》

1  原告は、内装業を営む櫻田商店及び金融業を営む有限会社櫻田商事の各代表取締役であるところ、昭和六一年頃から参加人金井に櫻田商店振出の約束手形を交付し、参加人金井が金融業者でこれを割り引くなどしてその金融をはかっていたが、昭和六二年二月頃、参加人金井から、被告丸市商事が不動産を譲渡担保に二〇〇〇万円を融通することを聞き知るに及び、原告所有の本件物件を譲渡担保とすることで同参加人にその折衝を依頼し、被告丸市商事の承諾を得るに至った。そこで、原告は、同年三月四日、参加人金井と同道して被告丸市商事の事務所に赴き、本件物件を譲渡担保に、被告丸市商事から二〇〇〇万円を借り受けることになったが、その当時、原告は本件物件の権利証を有していなかったため、保証書で所有権移転登記をすることとなり、右登記に日時を要することから、とりあえず本件物件について所有権移転仮登記を経由することとして、同日、原告名義の仮領収証を発行して、緊急に必要とする五〇〇万円を被告丸市商事から借り受けた。その際、原告は、本件物件について譲渡担保を原因とする所有権移転仮登記に必要な登記関係書類、貸金二〇〇〇万円及び譲渡担保設定について公正証書を作成するための委任状、支払担保のための櫻田商店振出の約束手形等を作成して、これを被告丸市商事に交付した。右二〇〇〇万円の貸金については、弁済期を一か月後、利息は月二・五パーセントとし、一か月分の利息を前払いすれば、その都度弁済期を一か月延長して最長六か月まで延長することとされたが、公正証書上は弁済期を六か月後の昭和六二年九月四日とし、利息・損害金についても利息制限法所定の利率としてこれを作成することを了承した。

被告丸市商事は、同年三月五日、右登記関係書類をもって、本件物件について、同年三月四日譲渡担保を原因とする所有権移転仮登記を経由するとともに、公証人役場に赴いて右のとおりの公正証書作成を依頼した。

2  その後、本件物件について保証書による所有権移転登記が可能となったことから、原告は、同年三月一七日、再び参加人金井と同道して被告丸市商事の事務所に赴き、同被告から残金一五〇〇万円を受領した。その際、原告の申し出により貸金二〇〇〇万円の借主を櫻田商店とすることになり、二〇〇〇万円に対する一か月分の利息五〇万円が天引され、その受領額を基準に利率を年三〇・七二パーセント、損害金を年五四・七五パーセント、弁済期を同年四月一六日とすること、櫻田商店が前記支払を一回でも怠ったとき、被告丸市商事に対する他の債務の履行を怠ったとき、櫻田商店等の振出又は引受にかかる手形又は小切手を不渡りにしたとき等には期限の利益を喪失する旨が約され、原告及び参加人金井は櫻田商店の右貸金債務について連帯保証をした。原告は、澤田商店の右貸金債務を被担保債務として本件物件について譲渡担保を設定することを了承し、被告丸市商事に対し、同年三月四日譲渡担保を原因とする所有権移転本登記に必要な登記関係書類、櫻田商店振出の額面二〇〇〇万円、満期昭和六二年四月一六日なる約束手形を交付し、原告は右約束手形表面に保証の意味で署名押印し、参加人金井はこれに裏書をした。そして、原告と被告丸市商事の代表取締役金井与市は公証人役場に赴き、既に作成を依頼してあった公正証書に署名押印した。

なお、右公正証書上は、前記経緯から次のとおりの記載をもって作成された。

(一)  被告丸市商事は昭和六二年三月五日原告に対し二〇〇〇万円を貸渡し、原告はこれを借受けた。

(二)  弁済期 同年九月四日

(三)  利息 年三〇パーセントの割合で貸借日に同年四月四日までの分は支払ずみで、それ以後の分は年一五パーセントの割合で毎月五日に一か月分を前払する。

(四)  損害金 年三〇パーセントの割合とする。

(五)  原告が約定期日に利息金の支払を怠ったとき、支払を停止し、又は振出、裏書、保証した手形、小切手が不渡となったとき、被告丸市商事に通知しないで住所を移転したとき等は、同被告からの通知催告がなくとも当然期限の利益を失う。

(六)  原告は、右債務を担保する目的で、その所有に属する本件物件を、次の約定に基づき被告丸市商事に譲渡し、かつその所有権を移転し、占有改定の方法により右物件全部を被告丸市商事に引き渡した。

(1) 原告が右債務を履行したときは、被告丸市商事は本件物件の所有権を原告に移転する。

(2) 原告が右債務を履行しないときは、被告丸市商事において任意に本件物件を売却し、その売得金で該債務の弁済に充当することができる。この場合換価代金が全債務の額に満たないときは、原告は直ちにその不足額を支払う。その換価代金が債務額を超過するときは、被告丸市商事は直ちにその超過額を原告に支払う。

しかしながら、右記載は、公正証書作成を依頼した当時、貸金二〇〇〇万円の借主を原告としたことによるものであって、右借主を櫻田商店に変更したことにより当事者の点においてもその実態と異なることとなったものであるが、これは公正証書作成当日になっての変更であり、そのための公正証書を作成することになれば更に数日を要することから、原告及び被告丸市商事代表者とも従前に作成を依頼した内容のままこれに署名押印したものであった。

被告丸市商事は、同年三月一八日、前記登記関係書類により本件物件について譲渡担保を原因とする所有権移転本登記を経由した。

右認定の事実によれば、被告丸市商事は、昭和六二年三月四日、原告に二〇〇〇万円を貸し渡す約束で、これを担保するため原告から本件物件について処分清算型の譲渡担保の設定を受け、同日、原告にその内金五〇〇万円を交付したものであるが、同月一七日に残金一五〇〇万円を交付する際、貸金二〇〇〇万円の借主を櫻田商店に変更し、右譲渡担保についてもその被担保債務を櫻田商店の被告丸市商事に対する右貸金債務に変更したものと解するのが相当である。

そうすると、本件物件について、原告から被告丸市商事に対してなされた所有権移転仮登記及び所有権移転登記は、いずれも右譲渡担保権設定契約に基づくものとして有効である。

原告は、被告丸市商事から二〇〇〇万円を借り受けたのは原告である旨主張するところ、これは前記公正証書の記載に符合するものであるが、前記認定の公正証書作成の経緯からみてその記載が実態に合致するものということはできない。また、甲第一〇号証の一、二(借用証書)では二〇〇〇万円の借主が原告となっているが、《証拠省略》によると、これは昭和六二年三月四日に五〇〇万円を原告に交付する際に作成したものであって、同月一七日に残金一五〇〇万円を交付した際、貸金二〇〇〇万円について新たに櫻田商店を借主とする借用証書を作成し、櫻田商店も右二〇〇〇万円を同社において領収した旨の領収証を発行していることが認められるので、貸金二〇〇〇万円は最終的に櫻田商店が借り受けることになったものと解するのが相当である。

三  譲渡担保権実行について

前項で認定したところによれば、被告丸市商事は櫻田商店に二〇〇〇万円を貸し渡し、参加人金井は櫻田商店の右貸金債務について連帯保証をし、原告は櫻田商店の右貸金債務の担保として被告丸市商事に対し本件物件について処分清算型の譲渡担保権を設定したものであるが、更に、《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる。《証拠判断省略》

1  櫻田商店は、昭和六二年三月三〇日、第一回目の手形不渡りを出し、同年四月七日には第二回目の不渡りを出して銀行取引停止処分を受けた。櫻田商店は、被告丸市商事から借り受けた二〇〇〇万円のうち一五〇〇万円は自己が使用し、五〇〇万円は参加人白浜に融通したものであったため、右一五〇〇万円に対応する一か月分の利息三七万五〇〇〇円を事前に参加人金井に預けてあったが、その支払うべき同年四月一六日を経過するも参加人金井から被告丸市商事に支払われなかった。櫻田商店は右倒産に伴い事務所を閉鎖し、原告も住所を移転した。被告丸市商事に差し入れられた櫻田商店振出の満期同年四月一六日、額面二〇〇〇万円の約束手形は、被告丸市商事によって取立に回されたが、同月二〇日、停止処分済を理由に不渡りとなった。

2  被告丸市商事の代表取締役金井与市は、櫻田商店の不渡りを知って同社事務所に赴いたが同事務所は既に閉鎖されており、原告とも連絡が取れず、参加人金井に原告の所在を尋ねたりしたが、同参加人にも原告の行方は知れず、被告丸市商事から連帯保証人としての追及を受けた参加人金井は、同白浜の紹介で被告三住企画が本件物件の買受の意向があることを知り、これを同被告に売却することによって被告丸市商事に代位弁済することを図り、同年五月二三日、被告三住企画の要求で売主として参加した参加人白浜とともに、本件物件を代金一億円で売り渡す旨の売買契約を締結し、受領した代金から直ちに被告丸市商事に対し、櫻田商店の貸金債務の元利金二〇九七万〇五〇〇円を代位弁済した。

3  参加人金井と被告丸市商事は、右代位弁済により被告丸市商事が本件物件について有していた譲渡担保権を参加人金井において承継した旨合意し、これに基づき、被告三住企画に対し、本件物件を売り渡したものとして、同年五月二五日、本件物件について、中間省略登記により、被告丸市商事から被告三住企画に対し所有権移転登記が経由された。

右認定の事実によると、原告が本件物件について被告丸市商事に対して設定した譲渡担保は、櫻田商店の債務不履行により、被告丸市商事においてその処分権を取得し、参加人金井の代位弁済により右処分権が同参加人に移転し、参加人金井がこれを処分することにより、原告は本件物件についての所有権を完全に喪失したものというべきである。

ところで、譲渡担保権者は、債務者が弁済期に債務を弁済しない場合においては、目的不動産を換価処分し、またはこれを適正に評価された右不動産の価額から、自己の債権額を差し引き、なお残額があるときは、これを清算金として債務者に支払うことを要するものと解すべきであるから、債務者は右債権について清算がなされるまではこれを弁済して目的不動産を取り戻すことができるが、債権者が譲渡担保により目的不動産の所有権を取得したとして、右不動産の所有権を第三者に譲渡して所有権移転登記がされたときは、右清算がなされていない場合であっても、右不動産の所有権が譲渡担保権者を経て第三者に移転するものと解するのが相当である。

本件においては、前記認定のとおり処分清算型の譲渡担保権が設定され、その実行による清算が約されているものであるが、《証拠省略》によると、本件物件を換価処分した参加人金井は、右清算金を全く原告に支払っていないことが認められる。しかしながら、被告丸市商事が譲渡担保により本件物件の所有権を取得し、連帯保証人である参加人金井が右譲渡担保の被担保債務を代位弁済したことにより右所有権の移転を受けたとして、これを被告丸市商事から第三者である被告三住企画に中間省略登記により所有権移転登記を経由したものであるから、右清算がなされていなくとも、右所有権は譲渡担保権者である被告丸市商事、代位弁済した参加人金井を経て第三者である被告三住企画に移転したというべきである。

原告は、債務提供のうえ、昭和六二年七月四日、双和名義で、被告丸市商事を被供託者として、借受債務を弁済供託した旨主張するが、右弁済供託がなされたのは、本件物件の所有権が被告三住企画に譲渡され、所有権移転登記がされた後であることはその主張からも明らかであるから、原告は右弁済供託をもって本件物件を取り戻すことはできない。

四  以上の次第で原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森髙重久)

〈以下省略〉

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